自然に還る供養のかたち「海洋散骨」とは
最近、海洋散骨の話題がテレビや新聞で取り上げられることが多くなってきました。
その背景には、少子高齢化によりお墓を継承する人間がいない、お墓を維持管理する費用の高騰など切実な理由もあるようです。
1991年に「葬送のための祭祀で節度を持って行われる限り違法ではない」という見解が法務省から発表されてから、「他人の土地に無断で撒かない」「散骨場所周辺の住民感情に配慮」といったことを厳守することで、散骨が行われるようになりました。
海洋散骨とは故人の遺骨をパウダー状に粉骨して海洋に散布する自然葬です。
故人の希望であったり、何らかの事情でお墓を持てなかったりする人や、墓じまいを考えている人にとって、最適な供養の方法です。
海洋散骨の歴史
1991年より日本でも海や山で散骨が行われるようになりましたが、散骨の歴史は意外と古く、平安時代にはすでに行われていたという記述が存在します。
日本紀略という書物の中に、淳和天皇が死に際し、葬儀は簡略化すること、骨を砕き、粉にして山中に散骨して欲しいと言い残されたとあります。また万葉集には「玉梓の妹は玉かもあしひきの清き山辺に撒けば散りぬる」という、愛する妻の遺骨を散布したところ、どこへともなく散って行った、という内容の和歌が残っています。
これらの背景から散骨とは、火葬技術が未熟で土葬が一般的であった時代には、一部の特権階級にのみ許された葬送だったようです。
江戸時代になり、寺請制度(各寺院に必ず所属する制度)から檀家制度へと発展し、現在の家ごとに墓を守るという葬送に近い形態になりましたが、それ以前の庶民は自然の中で埋葬されることも多く、自然に還る葬送は身近なものだったのです。
散骨された有名人・著名人
海、川、そして空に。私たちのよく知る有名人の中にも、自ら望んで自然に還っていった人が数多います。
X JAPANのhideはサンタモニカの海に、遺族とメンバーの手によって散骨されたとのニュースが報道されているので、知っている方も多いかもしれません。
世紀の天才といわれたドイツの理論物理学者アルベルト・アインシュタインは、本人の希望によりデラウェア川に散骨されたそうです。
20世紀最高のソプラノ歌手といわれたマリア・カラスや、フランスの名優ジャン・ギャバンの遺灰は海に撒かれています。最近亡くなったデヴィッド・ボウイは生前より散骨を希望し、バリ島や彼の別荘があったニューヨーク州の山地で撒かれるといくつかのメディアで報道されました。
年間1万人近くの遺骨が散骨されている
遺骨を墓には納めずパウダー状にした遺骨を海などに散布する「散骨」が近年増加しております。
海洋散骨に樹木葬━。本人の意思を尊重する「弔い方」は近年、多様化してきています。
自然に還りたいという故人の意向のほか、核家族化、少子高齢化などの進行で「墓を継承する人間がいない」「高額な墓の購入や維持費を思うと二の足を踏んでしまう」という切実な要因により散骨という選択をする場合もあるようですが、散骨という自然葬への忌避感が薄れた背景には、メディアの影響も大きいようです。
「世界の中心で愛をさけぶ」や「マディソン郡の橋」などの映画のほか、高倉健主演の「あなたへ」では、「故郷の海に散骨して下さい」という願いを託す妻と、困惑しながらも妻の深い愛情に気が付き、故郷の雄大な玄海灘で散骨をするというストーリーで、イメージアップしたようです。
自然葬/海洋散骨の人気は上昇中
核家族化や少子高齢化が進み、生涯独身の方や離婚経験者が増えています。
先祖代々のお墓を継承する子孫がいないケースも増加傾向にあり、生前に終活をすることの重要性が高まってきています。
子供に迷惑をかけたくないという人や、おひとりさまの間で注目を集めているのは、墓石を必要とせず、墓の維持管理の心配もいらない、遺骨を自然に還す自然葬です。
昨年、永代供養で後継者の心配のない樹木葬の墓地、定員500名の募集に対して8000人以上の申し込みがあったそうです。
樹木葬は自然に還りたいという希望は叶えられますが、一つ注意が必要です。
樹木葬の場合、墓地から樹木葬へ改葬は出来ますが、いちど樹木葬にすると、遺骨を土に還す為、再度改葬することは不可能ですので、家族としっかり話し合って決めてください。
海洋散骨でも同様の懸念はありますが、海洋上に散布するために遺骨をパウダー状に粉骨しなければならないので、故人のパウダー状になった遺骨を分骨する為にお手元供養品を用意しているところもあるので問い合わせてみるのもいいでしょう。
墓じまいに伴う散骨
お墓を購入するには永代使用料と墓石費用が掛かり、更に維持管理費もかかります。
購入費用は全国平均で196.37万円、東京では256万円以上掛かっているというデータもあります。
遠方にお墓がある場合、高齢化に伴いお墓の維持管理が困難になり「墓じまい」を選択する人や、先祖代々続くお墓の継承者が絶え、「無縁墓」になってしまう事態も起こってきています。
墓じまいには、大きく2つあり「永代供養墓」に移す方法と、「散骨、樹木葬」などの自然葬があります。
「永代供養墓」は共同で埋葬されることが多く、生前から親交のある友人と「墓友」として一緒に埋葬されようねという人もいるようですが、一般的に10~50万円ほどの費用が掛かると言われていて先祖代々の遺骨を全て埋葬するには相応の費用が掛かってしまいます。
「散骨、樹木葬」に代表される自然葬は他の葬送に比べ費用的にリーズナブルだと言われています。
散骨の際に遺骨をパウダー状に粉骨するのですが、その粉骨を容器やアクセサリーに封入して身に着けたり、自宅に置いて手を合わせる方も多いようで「お手元供養品」も多く販売されるようになりました。
遺骨遺棄が社会問題になっている
遺骨の保管に困っていたのだろうか・・。
電車の網棚や公共のトイレなどで骨壺発見され、警察に遺失物として届けられています。
その件数は増加傾向にあり共通点として、戒名札や火葬場を特定できるような包みが取り除かれていたという。うっかり忘れたのではなく、捨てられたのです。
病死された妻の火葬されたばかりの頭蓋骨をスーパーの屋上トイレに捨てたとして、夫が「死体遺棄容疑」で書類送検される事態も起きています。
法律上、遺骨を勝手に遺棄することが出来ないので、納骨するか、手元に置いておくしかないのです。
近年、墓を巡る問題は深刻化していて地方では無縁墓が増え続けています。
また都市部では土地が高騰して墓を買えない人も多い。前述の事件はそんな事情が絡み合った不幸の連鎖といえるでしょう。
今では亡くなる方の1割が何らかの形で自然葬をしているという推計もあります。
遺骨の保管等にお困りの方は、海洋散骨や樹木葬などの自然葬を検討することをお勧めいたします。
分骨して手元供養するのも一手
自然に還りたいという故人の意向に沿って散骨を行いたいが、長年お墓で手を合わせていたので、祈念の場所がなくなることへの不安があるという人も多数いらっしゃいます。
遺骨を全て散骨してしまうと、これから先、一緒にお墓に入れないという事態も想定されます。
墓所が遠くて墓参りに行けない高齢者や、いつも故人と一緒にいて偲びたいというニーズに対応するのが、分骨して手元供養するという方法です。
自宅できれいな陶器やミニ骨壺に遺骨を入れ部屋に飾り、供養するというものです。
アクセサリーとして残すタイプもあり、ペンダントトップの中にパウダー状の遺骨を入れて身に着けることで、常に故人と一緒居られます。
ペンダントを外し飾れば、そこが故人の眠る場所にもなるのです。
常に「故人に守られている」あるいは「守っている」ような気持ちになることができるのではないでしょうか。